導入のきっかけと時期
AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)を導入したのは2018年4月で、宅地建物取引業法の改正施行に合わせて新たなシステムを構築したことによります。大きな法改正であったため短時間に情報を収集し、方向性を定めて早期に着手する必要がありました。
御社では以前はどのようなシステムで運用をなさっておられたのでしょうか?
弊社では、いわゆるレガシーシステムがオンプレミスの環境にあり、前世代からお付き合いのあるベンダが開発から運用・保守まで担ってきました。その中に不動産売買契約書、重要事項説明書というふたつの法定書類を作成するシステムがあり、これらが法改正により改修を余儀なくされたもので、該当するシステムを更新(従来ベンダに依頼)するか、新規に構築するかという2案が浮上しましたが、最終的に新たな機能も付加して新規に構築するという選択をしました。ケイズコーポレーション(以下ケイズ)様には以前から一部の業務系システムの開発などでお世話になっていたため、このシステム構築についてご相談させていただいたのがきっかけです。
なぜ新たなシステムに変えることを決断したのでしょうか?
従来のシステムは、お客様にお渡しする契約書と重要事項説明書の紙面が、そのまま画面に表示されるスタイルでした。縦、横にスクロールしないと完成しない仕組みで、とても入力しづらいものでした。しかも、同じ単語を何度も打ち込まなければならなかったり、計算式が入っていないために電卓を使わざるを得なかったりと、様々な問題点がありました。極めて非効率な作業なので抜本的に変えていこうと考えました。
どんなシステムを目指したのでしょうか?
元々、不動産業界は古い業界です。まだまだアナログな紙文化が蔓延しています。この機会に書類作成に関する作業効率を高めることで、お客様への迅速な書類提供も実現させて、顧客満足度の向上にも貢献したいと考えました。手入力や手計算をできる限り排除して、ヒューマンエラーが少なくなるようにシステム自体の進化も目指しました。 また、不動産業界ではトラブルや災害などが生じる度に取引に関する注意事項が増え、その都度、契約関係書類への記載内容も書類作成に要する時間も増加する傾向にありました。これらの増加した記載内容は該当する説明欄に収まらず、最終ページの備考欄にすべてが集約されていきます。すなわち説明が進む都度最終ページに飛び、また本来の説明ページに戻るという非効率かつわかりづらい説明が繰り返されていました。弊社社員も説明しづらいですが、何よりも不動産売買に不慣れな一般のお客様にとっては極めてわかりづらく不親切なものと言わざるを得ません。当然必要な内容は記載されているので法的な問題はありませんが、より理解を深めていただくために、該当する説明欄に伸縮機能や必要なスペースを確保するなど工夫しました。
新たな機能も付加した結果、契約書と重要事項説明書の作成に関しては30%から50%の時間短縮となり、事務作業の効率化を実現させています。さらに定性面として、重要事項説明書がお客様にとって以前よりわかりやすいものとなっていることを確信しています。
AWSの新システムを依頼した理由は?
ケイズ様には、弊社が物件情報の管理についてあるクラウドシステムを利用する際に、その構築と運用でお世話になったことがあり、その仕事ぶりに信頼感がありました。 2017年4月に現在のIT推進部に着任して以降議論が始まり、実際に依頼して着手できるのは同年夏頃、翌年4月1日に稼働させるためには、約半年しか時間がないという非常に厳しい条件でした。そのような状況でケイズ様にご相談して、タイトなスケジュールでありながら新たな機能も付加して、かつ弊社初のクラウド上のアプリケーション構築を実現するというプロジェクトが始まりました。
このようなシステム開発においては時間単価の積み上げが業務の見積額となり、漫然と取り組めばその分コストは高くなりますが、時間的にも猶予はなく、コストも当然限られていました。「必要最小限のメンバーでスピーディーに対応できるのがケイズ様の強み」であることを前提に、法改正への対応と機能拡張・改善による業務効率化・生産性の向上を確実に実現させるために、弊社内での必要な手続きを進めていきました。 短期間に大胆な改善を図った結果として、リリース時のトラブルもありましたが、そのリカバー力および現在に至るまでの運用・フォローについてはあらためて高く評価しています。
AWSについてはどのようにお考えでしょうか?
クラウドのメリットは、クラウドベンダが提供するサーバに対するセキュリティ、他にも色々なサービスが部品として揃っていることだと考えています。AWSの場合は、トラブルも少なく安定的に稼働しており、グローバルにも圧倒的なシェアがあるのは周知のとおりです。この度は法改正への対応がメインでしたが、このようなことは将来的にも十分起こりうるため、システムの拡張性や柔軟性を確保する観点からもAWSを選んだ次第です。 当時でも導入事例は様々な業界において豊富であり、特に大規模かつ審査基準が厳しい金融機関などで採用されていることも判断材料のひとつとなりました。
AWS活用の理想像などがあればお聞かせください。
不動産業界においては、お客様を他の不動産会社と共同で仲介することも珍しくありません。しかしながらシステム化された共通の基盤は十分でなく、各社類似システムを個別に構築していて非効率的と言わざるを得ないのが現状です。理想像となりますが、同業他社様に弊社のシステムをシェアすることも、弊社のみならず不動産業界全体のお客様のメリットにつながるのではないかと考えています。将来的にこのシステムを業界内で広く利用可能なプラットフォームへ進化させることも、AWSのサービスを利用すれば可能であると期待しています。
メッセージ
この世界にベンダは多数ありますが、ケイズ様との取り組みを通じて感じることは、まずは費用面でローコスト&ハイパフォーマンスであることだと感じます。予算が組めなければシステム構築は出来ません。
また、この分野の開発業務に関しては、難題山積で頭を悩ますことが少なくないと思いますが、当社に親身に寄り添ってくださった印象が強くあります。弊社担当者とのフレキシブルなコミュニケーション、課題解決を図るための前向きな姿勢、やはりベンダは技術力もさることながら「人」だと感じています この度はありがとうございました。
※記事内容は2019年12月取材当時のものです。